編集エンジン構想を踏まえ、IPを利用したシステムで編集工学研究所が一番最初にかたちにしたのが、花鳥風月型連想検索システム『THE MIYAKO』です。今回実際に見せて頂きました。

このシステムは、京都市から、京都に蓄積された膨大なアナログデータをデータベース化、それも古来からある日本文化を用いた面白く見られるマルチメディアデータベースにして欲しいという依頼を受けて製作されたそうです。
「当時スタンフォード大学日本センター所長だった今井賢一先生やマルチメディアソフト振興協会にも支えてもらいました。実際の製作にあたっては、もうIPCメンバー総動員で、いろんな方にお世話になりました。表示型にPADを使い、自分で操作しながらデーターベースの中にどんどん入っていけるという仕組みを、皆さん面白がってくれたんだと思います。」

 
「マップ」画面

「シーン」画面
名所(シーン)の情報構造
 

「マップ」「シーン」「スポット」「オブジェクト」という4段階の表示型を基本構造とするMIYAKO。ユーザーは「洛中洛外マップ」から入り、自分の興味に合わせて、名所を選択。たとえば金閣寺を選ぶと、金閣寺の空間構造(「シーン」)が出現します。そこから金閣寺という建物自体(「スポット」)を選ぶと、屋根の上に立つ鳳凰など、赤枠でさらに細かな事物が紹介され、そこへ飛ぶと、ハンドリング可能な最終情報単位「オブジェクト」画面があらわれます。このオブジェクト画面には、別のオブジェクトへ飛ぶ、「連想検索ボタン」とよばれるものがついています。




「日本文化は、歌枕がまさにそうですが、連想の体系をもっています。それをユーザーに向けて表現するには、従来の検索型のデータベースでは対応できないですよね。そこでIPの機能連結機能の特長を生かせないかと考えたんです。」
オブジェクト画面の下に並ぶ〈つくし〉〈ゆかり〉〈みたて〉〈しごと〉〈あわせ〉の連想検索ボタン。押すとどうなのですか?
「たとえば梅のオブジェクトのときに〈あわせ〉ボタンを押すと、松のオブジェクトに飛びます。獅子なら〈あわせ〉は牡丹ですね。MIYAKOでは梅と松を別々の情報として扱わず、ひとつの情報のセットとしています。」
梅の〈あわせ〉ボタンは一枚のPADになっていて、松の画面へ飛びなさいという指示が画面遷移表と呼ばれるシートに書き込まれています。この梅と松のセットをひとつのモジュールとして取り出し、編集状態にまでもっていけるのがオブジェクト指向のIPの強みなのだそうです。
 


 
 
 
 

「MIYAKO は、実はデータベースはもっていないんですよ。」と太田さんが驚きの発言。「画面遷移表で“データベース状態”になっているだけです。しかも表は簡単で、“シーン105からシーン137へ”という遷移しか書かれていません。」
PAD同士の幾重にも重なった相互リンクが、背後でデータベースもようなものが動いていると私に錯覚させたのかもしれません。
「つまりデータの構造化を全て表示型(見栄)でやっているということです。環境でいうと、クライアント・オーサリング環境です。」なるほど、そういうことですか。
「でもそれは諸刃の剣で、属性などで階層化されたデータベースを持っていないため、検索して任意の場所へ行くことができない。獅子の〈合わせ〉は牡丹だという情報は外からはわかない構造になっています。」



開いている画面の先に何があるのか興味がそそられ、どんどん奥へ進んでしまうMIYAKOの構造。情報の中を進んだり、別のオブジェクトへ飛ぶ感覚はなんとなくwebの世界を思わせますね。
「webは個々のサイトが大量のオブジェクトをつくっている状態で、統合された金閣寺という情報構造をもっていません。MIYAKOの新しいところはまさにそこで、シーンという情報構造を持っていること。たとえば密教寺院と法華寺院の構造は全く違いますが、それが一目でわかるということですね。」

MIYAKOの情報構造には「マップ、シーン、オブジェクト」のタテと、花鳥風月連想のヨコの構造をもっていることが見えてきました。ユーザーはそれを気にせず操作できましが、実際はうまく融合させるには、苦労があるそうです。
「属性をひとつひとつ付けてデータベース化できれば楽ですが、それでは肝心の空間移動や・図間移動が難しくなる。本当はこれらを統合して、編集エンジンを使って、うまくやり取りしたいところですが、それはもうちょっと先の話ですね。当分は、遷移の組み立てを人間が担当して一生懸命やるしかないないですね(笑)。」