【IPで編集の国をつくってしまった!】
 
 
数多くのIPでつくられたソフト、システムを世に送り出し、それを取り巻く人材育成と地域ネットワークづくりにも会社を挙げて力を注いできた編集工学研究所。
今回はその開発の中心となり、全国を飛び回る太田剛さんにお話を伺いにやってきました。所長の松岡正剛氏は田中譲先生がIPを思いつく以前からのお知り合いで、二人はインターネット環境の可能性に関して様々な議論を交わしていたのだそうです。「当時から既にIPに関するアイデアもいくつか出ていました。」とニッコリ笑って話してくださった太田さん。



太田さん自身が初めて田中譲先生と出会ったのは、田中先生と所長の松岡正剛さんを中心に始まった「OPERAプロジェクト」がきっかけでした。英語におきかえると「WORKS−人類が今までに出してきたあらゆる成果」という意味を持つ「OPERA」と名のつくそのプロジェクトは、人文系から技術系までをオーガナイズしたシステム開発、それをベースとしたソフト開発を目的とするものでした。

「プロジェクトの中心に何を置いたかというと、“物語”なんです。古今東西の物語を研究し、そこから抽出した型をベースにしたシステムを作ろうとしました。」と太田さん。
世界中の物語はせいぜい20程度の型しか存在しないそうです。ちなみにその型のひとつの「シンデレラ」型は、世界中で何百バージョンもあり、日本の信濃川流域だけでも60〜100バージョンもあるとのこと。そうした20個の型をシステム開発に取り入れようとしたのです。

 

 
 



 

太田さんたちはまず、100個の特徴のある物語を抽出して、そこからキーワードの意味に近い「物語素」を取り出す作業を行いました。抽出された「門」・「竃」・「剣」などの物語素は、世界中のあらゆる物語に登場する重要なファクターになっていて、太田さんたちはそれらの要素に12個のタグをつけ、それらがどの物語にリンクしているかをまとめた構造図を作成したのだそうです。
「ここでの議論がIP開発に役立ったのだと思います。」
と太田さん。物語素が組み合わさって物語が生まれるように、部品が組み合わさってプログラムをつくるIP。太田さんは、またそこに「編集」という類似性を感じるそうです。
「たとえば“私は”という言葉は“は”や“を”を伴って動いていますね。つまり物語もIPも“編集されたがっている”状態なんですね。編集工学研究所ではよく“情報はひとりじゃいられない”と言っています(笑)。」

 

身振り手振りをまじえ、じっくり説明してくださった太田さん

 

 
 
そしてこの時、太田さんと田中先生のチームは、物語的かつ編集的なシステムに必要なものとして、次の3つの基礎的な構造を考えたのだそうです。

・ネットワーク・ツーリング環境
・サーバ・リフレーミング環境
・クライアントオーサリング環境

まずネットワーク・ツーリング環境で、インターネット
など、混沌とした情報の中から決められたレシピに従って必要な情報を引っ張ってくる。
 次のサーバ・環境で、集めてきた情報を再構築。メニューに応じて情報を組み換える。このメニューには「物語の型」が想定されています。
 そして、クライアントオーサリング環境で、リフレーミングされた情報をユーザーが足したり、引いたりして自由にアレンジする。という流れだそうです。
「編集工学研究所の現在に至るまであらゆるソフトのシステム構造は全てこの3つの延長上にあります。」と太田さん。この3つのシステム構造が、実際にIPを使ったシステム構築の前段となったようです。

 
 
 



 

1990年当時より、編集工学研究所は「日本文化とシステム世界の融合」を目指して、様々な実験的試みを行っていました。『歳時記』の世界をシステムに落とし込んだ、データベースとツールが一緒になったような文房具をつくるというテーマのもとで開発された『電脳歳時記』や、その機能を京都の観光案内用のソフトに応用して作られた『京都ハイパー絵巻』などユニークなネーミングのものが並びます。「これらは“梅に鶯”“獅子に牡丹”といったように、日本文化特有の連想を活かした“日本文化型連想エンジン”を搭載したイメージプロセッサーでした。」と太田さん。ここでの試行錯誤がのちに紹介する『THE MIYAKO』に生かされるのです。



 その後、編集と日本文化やシステムを繋げる開発を行う中で、太田さんのチームでは、1995年より「編集エンジン構想」という発想が生まれます。
「編集エンジン」とは、ネットワーク・ツーリング環境、サーバ・リフレーミング環境、クライアントオーサリング環境の3つを統合した構造のこと。情報を蓄えるデータベースと画面上で表現する表示型は、まったく別の構造を持っているそうですが、データベースと表示型の構造が限りなく近い方が編集性が発揮しやすいのだそうです。
そこで、太田さんたちが注目したのがIP。情報をここに表示しなさいというプログラムを自身が持っているIPのオブジェクト指向は、データベースと表示型を限りなく近づける可能性をもっていました。以降IPは編集工学研究所の構想する「編集エンジン」を実現するためのまさに“エンジン”となっていきます。