田中:IntelligentPadの将来を考えると、パソコンの上で動かすという枠からはずしたほうがよいのではないかと考えています。Palmが成功したのは、大量なデータを持ち歩くのではなく、必要な情報だけを持ち出せるようにしたからです。個人レベルの情報処理にも分散化が求められているんですね。最近のPalmの性能は、IPがはじめて登場した頃のパソコンの性能よりも優れていますから、持ち歩く必要のない機能をそぎ落として移植すれば、IPをPalmのような携帯端末で動かすことは、技術的にも可能でしょう。必要なときに引き出しからIPを引っぱり出してそれを実現する。ドラえもんみたいですね(笑)。でも私は、IntelligentPadはそのために生まれてきたツールだと思います。
岡本:今やソフトウェアの実行環境がパソコン上に限らないということは、最近のデジタル家電の例を見ればわかります。冷蔵庫にも洗濯機にもCPUが載って、お互いに通信までするようになってきた。これからの情報編集の場は、パソコンの上から私たちの身の回りへと移っていくでしょう。今のIntelligentPadは、基本的に一人の人間が情報を切り貼りしたり編集するためのツールという性格のものですが、家電でさえ通信する時代ですから、ますます人間同士のやりとりを目に見える形に置きかえることが重要となる。例えばある場で編集が進んでいるときに、その場に近づくと携帯電話のようなデバイスがそれまでのプロセスを見せてくれるようなことができるといい。
太田:携帯電話やPDAは、情報単位の感覚や扱い方がIntelligentPadと似ているようなところがありますね。やりとりしあう時の関係の表現方法など課題はありますが、IntelligentPadを携帯デバイスの上でユビキタス的に使うのは、非常に夢のある話ですね。ただ、人が情報に接するときに、自然に編集が起こるわけだけど、その編集の目的あったものだけでなく、他に余分な成果物ができますよね。それが編集活動そのものを支えるドライブになっていたりする。IPもその“余分”がある程度勝手に作られると面白いんですけどね。例えばお財布の機能があった時に、単に残高を管理するだけではなく、お財布自体が大きなガマ口なのか、それとも皮でできた札入れなのか、それからお財布に飾りをつける人もいる。ユーザって、実はそういうことでお財布に愛着をもったり、お金を余分に使いすぎたりするわけですから(笑)、そういうお財布の本来の機能を超えた余分がIntelligentPadに欲しいですね。
岡本:プログラミングの世界では、余分なものをできるだけ入れないことが求められていますから、むしろ積極的にその逆を行こうというアイデアは、プログラミングの方法を変える可能性がありますね。
太田:今作ってもらっているコミュニティ運営システムがあるのですが、汎用的なシステムは生年月日を登録すると年齢が表示されるところを、うちでは干支や星座も表示させたかった。実はそういう細かいところがコミュニティを盛り上げるきっかけになる。「乙女座のくせにロマンチストじゃないね」なんて(笑)。でも普通のプログラマーはその面白さを自然と排除しているようなところがある。
宮脇:今までは機能を実現していれば済んだものが、プラスの遊び心まで含めたオーダーに変化してきているんですね。世の中には、趣味的にプログラムをやっている人たちもいて、そういう人はモチベーションが高いからスキルも非常に高く、発想が非常にユニークなんです。そういう人たちを上手にマネジメントしたり、知識を共有できるような仕組みがあると、斬新な“余分”が出現するかもしれませんね。あとは個人の工夫が、他のユーザにも共有されていくのが理想ですね。そのツールとしては、やはりIntelligentPadが向いていると思いますよ。
 

もしかすると今日集まった人って、普段の業務で実現できない“夢”の部分を
すべてIntelligentPadに託してませんか?(笑)……太田

 
 



 

町田:私は、IntelligentPadがソフトウェア分野における携帯電話のような存在になってほしいですね。最初は肩からかけるほど大きかった携帯電話が、技術革新でサイズが小さくなった。次に同じ仕組みを使ったポケベルが出てくると、女子高生がそれを使ってメールを打ちはじめる。このメール機能が携帯に逆輸入されて、今では携帯電話で話をする人よりも、メールをする人のほうが多いくらいにまでなった。最初に携帯電話を考えた人だって、こんな世界が出現するとは思わなかったでしょう。アーキテクトレベルで多様なポテンシャルを秘めていたことが幸いして、使う側の工夫が技術として花咲いたんだと思います。IPもそれと同じような匂いがするんです(笑)。
宮脇:その意味で、今日ここに集まった出席者の責任は重大ですね。「口だけだ」なんて言われないようにしないと(笑)。ところで今日の話をみても、適度なつっこみや割り込みがあったおかげで話が盛り上がりましたよね。そのつっこみや割り込みをしている人の顔が、これまた生き生きとしていること(笑)。テーマ的に盛り上がる話題ではあったんですが、お互いの顔の表情や場の雰囲気みたいなものに触発されて、発想や話がどんどんと先に引っぱられていたような気がします。IPもまさにこの座談会のようなフェイス・トゥー・フェイスなツールになればいいなと思います。その時には、きっとポケベルのようにある程度の制約があったほうがコミュニケーションが盛り上がるでしょうね。それがどんな制約かは今の時点では分かりませんが、IPが相互編集のツールとして一般に受け入れられる鍵はそのあたりにありそうですね。
岡本:今まではフェイス・トゥー・フェイスというと、高速な回線や会議室システムということが言われていましたけど、実際に会議室システムに臨んでみると本当のフェイス・トゥー・フェイスからは遠ざかっていた感がありますよね。こうやって現実に顔をつきあわせているときは、どこかに場を盛り上げるためのエッセンスが隠れているはずです。それをIPに組み込めるたら、コミュニケーション分野での利用の道が拓けるかもしれませんね。
太田:今日は、文字通り日本のITを担う企業の中で、IntelligentPadを応援し続けてくださっているみなさんに集まっていただき、IPに託くす夢や可能性を存分に話していただきました。また、時代や社会のニーズの変化につれて、IPの期待がますます高まっていることも確認されました。まだまだ考えるべき課題や問題は多いですが、それを乗り越えて日本発のソフト基盤を世界に示せる日がそこまで来ていると思います。そのためにもIPコンソーシアムの担うべき役割というものが、今後ますます重要になってくると思います。ありがとうございました。