太田:デジタルの世界でキャッチボールをできるような“場”にあたるものは何でしょうか。チャットというのは、テキストを交換するために一時的にあらわれた仮想的な場です。IntelligentPadにもこうした場はあると思いますが、それが何なのか、チャットとどこが違うのか。そのあたりを探るために、IPをネット上で共有できるPiazzaについて振り返ってみたいと思います。Piazzaは“場”としてはわかりやすいものでしたが、果たして場として成り立っていたでしょうか。
【Piazza(ピアッツァ)】
ネットワーク上で、IntelligentPadによって作られた作品の配布や売買、自由なコミュニティ活動などの双方向コミュニケーションを行うために作られたIntelligentPadの仕組み。 |
宮脇:例えば自動車についての情報共有を考えてみると、ある車の購入希望者や購入者は、その車の不具合情報や使い勝手などを共有するメーリングリストや掲示板に集まってくる。その情報がテキストで表現できるうちはいいけど、テキストではお手上げだ、ということになったときには、Piazzaのような仕組みが威力を発揮するでしょうね。
町田:それでもあまり活用されなかったところをみると、参加する企業や個人に共通の目的がなかったのかもしれませんね。宮脇さんの話でいうと、特定の自動車の話題を共有したい、といったわかりやすい目的ですね。場で扱われる情報にも、何らかの制限がかかることが必要なのかもしれません。先ほど少し話した多摩美術大学の学生は、実際にいくつかのサンプル制作もしました。作業時間が短時間だったので完成度はそれほどではなかったんですが、学生たちのあるグループは、情報を載せるカードの角に三角形のステータスマークをつけた。情報に応じてカードのステータスがかわると、それにつれて色も随時変わるというようなものでしたが、それが彼らのコミュニケーションを支えていたように思います。IntelligentPadの技術的な完成度よりもその“三角パッド”のほうが、彼らのコミュニティには大事なわけですね。それに対してPiazzaは、ある程度汎用的な性格のものでしたから、盛り上がりに欠けたのではないかと思います。
太田:「編集の国ISIS」をやっていたときに、ユーザの知財評価やユーザランキングの仕組みについての議論をよくしましたが、汎用的な仕組みはなかなか使えなかった。決められたメンバーや決められた空間の中でのルールなどへの対応が求められる時は、汎用的なものはどうしても弱いですよね。
田中:技術的には汎用的でもよいのかもしれませんよ。汎用的なものも、限られた場で使えるようにカスタマイズできるようになっていればいいんだと思います。
太田:私もそこに突破口があるような気がしています。IntelligentPadも汎用的でありながら、使う側がルールやロールをカスタマイズできるようになっている。でも使う側がそこまでカスタマイズするのは、実際はかなり大変なことですよね。IP自体にも制約がありますが、その制約が使う側のカスタマイズにうまく作用しているのでしょうか。
町田:再び多摩美術大学の学生の例で考えてみたいのですが、彼らはクリエイターという性格上、IPのコンセプトに乗りやすい。逆に一般の人が同じようにIPを使いこなせるのかといわれると、ちょっと疑問ですね。
宮脇:学生たちが、IntelligentPadの制約を活かした発想をするタイプだったのか、それともたまたまそういう発想をする学生が集まったのかはわかりませんね。
町田:学生たちの議論はそれなりに折り合いがついているんですよね。はじめ彼らは、IPのそれぞれが凹凸になっていて、それを組合わさることによってつなぎ目がきれいに消えるというプログラマー泣かせのオーダーを持っていた(笑)。それが最終的に三角マークで色がつくみたいになった。それが彼らの“折り合い”だったわけです。
宮脇:もしくは、そういう制約を楽しんでいたのかもしれない(笑)。
岡本:やはりあの学生たちは、自分たちのやりたいことがまずあって、それをうまく部品や道具に置き換えられたんですね。これからのIntelligentPadは、自分がやりたいことを道具に置き換えられるようなさらにプリミティブなツールか、あるいはやりたいことに応じたモデルなどがあらかじめ用意されていて、そのモデルに応じて適切な道具立てが取りだせるといった、もう少しメタレベルの環境も用意していかなければならないでしょうね。
太田:編集工学研究所では、IntelligentPadをつかったシステム以外にもいくつかのシステムを作ってますが、IP以外のシステム開発では意外と融通というか無理が利かないんですよね。システムの担当者との間である程度議論がまとまると仕様が凍結されて、システムを作る側はそれを拠り所にしてシステムを組み上げる。仕上がった段階で「ちょっとここをこうしてほしい」なんてオーダーを出しても、「いや、仕様ではこうなってますから」となる(笑)。MIYAKOにしても他のものにしても、IPが開発ツールだった場合は、最終的な局面でもなんとかしてもらうことができた(笑)。開発チームもこういう進め方が面白いのか、オーダーを1出すと余分なモノを加えて3ぐらいになってでてくる。うちでも「そこまでできるならこれも」ってな具合で5にして返す。そうすると7ぐらいになってもどってきて、最終的には10ぐらいになってることもある(笑)。で結局、「太田さん、工数オーバーですよ」と言われることもしばしば(笑)。でも、こういう議論と組み立てがある程度並行して進めることができる点は、IntelligentPadのウリの1つですよね。
田中:システムを発注する側にとっては、どんなイメージになるのか、どんな動きになるのかを早い段階で見ることができるのは効果的ですね。
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