宮脇:機械の例を想像するとわかるのですが、分解することでその作り方がわかることってありますよね。それを逆に活用すると、「ここはこういう意図で作ったんですよ」っていうメモを部品に書いておけば、「あっ、こういう意味ね」という具合に別の人でも使えることになる。こんな風にプロセスを意図的に残すために使うのが、IntelligentPadの編集的価値ではないでしょうか。
岡本:MIYAKOがそうですよね。こういう風に見てください、辿ってください、っていう作り手が提示する思考の流れを、空間的なデザインとして閉じこめてある。あれは全体で1つの像を結んでいるので、部分を取り出していじるというのは無理だと思うんです。情報を組み合わせて編集するといっても、MIYAKOのようにある程度デザインされたものがあって、その中で編集するんだと思いますよ。
田中:技術的に見ても、いくら部分を変えたいと言ったところで、IntelligentPadもそれなりの知識をもって構成されているわけですから、普通の人ではちょっと難しい。自由に部品を組み替えできるというのが理想ではありますが。
太田:なるほど。MIYAKOも、ブラウズした情報を整理するためにマンダラ型の編集ツールをつけましたが、まさにそのような編集環境を用意するということなんでしょうね。
宮脇:ところで、部品を組み合わせたり編集するということに関しては、ウェブページとIntelligentPadの連携、いわゆるウェブ連携Padが登場したことで、そのあたりの様相が一変したなという印象を持っています。インターネット上のコンテンツが、そのままIPの部品として切り出せるわけですから。
【ウェブ連携Pad】
ウェブブラウザで見ている情報を、IntelligentPadとして切り出したり(ライブドキュメント)、それらを組み合わせて編集することができる、最先端のIntelligentPad技術。容易な操作が可能なことから、各方面からの注目が集まっている。 |
田中:IntelligentPadを流通させる場を作ったのにコンテンツがないぞ、というのでIPでブラウザを作ってしまったわけですが(笑)、コンテンツが容易にできるのに加えて、それらを組み合わせて連携するということもできることを考えれば、こういうIPの使い方が一番理想的なんでしょうね。
宮脇:流行りのウェブ連携サービスが、プログラマーの苦心の上にようやく成り立っていることを考えると、ウェブ連携Padのもつ潜在力は計り知れない。それに、いままでのようなウェブとの連携とは一線を画していますよね。非常に高い技術的水準にあると思います。次世代の技術としては、かなりの価値があるのではないでしょうか。
太田:確かに「そんなことしていいの?」って思うくらいインパクトありますよね(笑)。
田中:逆にこの便利さに対する抵抗もある。例えば著作権の問題です。イントラネット上の情報を切り出して使う分には問題ないのですが、インターネット上のコンテンツを切り出して使うということについては、議論が必要ですよね。情報の発信者がコピーの可・不可を表示するとか、いくつか方法はあると思うのですが、今のところネット上のコンテンツ利用に関する決定打はでてきていない。
宮脇:本当に困る人が増えてくれば、新しい仕組みがでてくるかもしれませんね。私としては、パソコンでの作業のベースが、OSからブラウザに移行するという可能性に期待を持っています。実際そういうニーズは高まってきていますよね。
田中:特定の分野ではそのようなサービスも出てきてはいますが、既存の技術ではそのシステム制作にかなりの労力が必要です。ある企業から、大幅な組織変更があるので社内の基幹データベースを統合したい、という相談があったんです。でもそれってまた組織変更がおこると、同じことの繰り返しになると思ったので、思い切って担当者にウェブ連携Padを見せてみた。そうしたら「これだ!」って。データベースを統合しなくても、手元で統合できればいいんだ、ということに気づいてくれたんですね。
宮脇:ソフトにそういう工夫がされると、そこに知識や価値が生まれてくる。つまり、ユーザの側でも工夫して作り上げていくことができるわけですね。誰かが「これは便利だ」といって作ったものをプールすれば、ほかの人とも共有できるわけですよね。IPの使い方としては、そういうのが一番適していると思います。ただ問題なのは、すごくいい技術はなぜかビジネスになりにくい(笑)。
田中:新しいものや変革を嫌うユーザってまだ多いですからね。便利な機能のついたメールソフトを薦めたら、「新しいのは操作を覚えなきゃいけないからヤダ」って(笑)。もしかすると、私たちエンジニアのように新しいものばかりを追っかけている人の方が珍しいのかもしれませんよ(笑)。
太田: IntelligentPadも技術的なことだけを考えるのではなく、ルールやロールなどの環境も含めたモデルを考える時期に来ているのかもしれませんね。編集工学研究所では、ツールだけではなくルールやロールも含めた実証実験を各地で展開していて、「地域編集プラットフォーム」と呼んでいますが、その場合の対象は地域文化なんですね。そこでIPのことを考えてみると、IPは例えばそういう地域情報を扱うのに適しているんでしょうか。
岡本:いろんな空間が必要だということは、以前から議論にあがっていたと思います。地域だけでなく、学校の教室にも個人の思考にも対応できるような、多様な空間が用意されるべきでしょうね。
宮脇:多摩美術大学の学生は、IntelligentPadで制作をしているときに、他の人の操作を見ることで新しい方法や技術を習得していた。しかもこういう時って、新しく発見した方法はすぐに伝播するでしょう。一つの場で顔をつきあわせながら事態が進行していくというのは、モノづくりの現場では重要ですね。
太田:顔をつきあわせていることで、モデルやプロセスが共有されているんですね。ある程度お互いの顔が見える範囲を空間として区切り、その空間の中だけで通用するようなローカル・ルールができればいいのかもしれませんね。
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