「ミームメディア」という言葉に触発されたという田中譲教授。





吉田: さて、次に僕たちは大きなスクリーンを使って、「ミームメディア」について説明してもらいました。田中先生は、Padというメディアに「生物の進化」を適応させて説明してくれました。
川原:私は「ミームメディア」という言葉を初めて聞きましたが、このミーム(meme)という言葉は、あの『利己的な遺伝子』で有名なリチャード・ドーキンスが新しくつくった言葉なんですよね。
吉田:遺伝子を表す"gene"という言葉と、模倣や芸術を表す"mimesis"という言葉を合わせた造語なんだよね。ドーキンスは、「文化においても遺伝子的な進化がある」といっている。例えば、アイディアが二つあったとして、その一部分を組み替えることによって新しいアイディアが生まれる。または、アイディアの一部が伝達されるときの誤りなどによって変わってしまい、そこに、また新たなアイディアが創発する。さらに、アイディアそのものが複製されてどんどん人に伝わったり、人々によって評価され、社会に残るものと残らないものが出てきて、自然淘汰が行われる。
川原:自然淘汰!なるほど、文化的なものでも、組み換えや突然変異など、生物が進化していくような振る舞いをするっていうことなんだ!田中先生は、『意識の進化』という本の中でこのミームという言葉に出会って、「コレだ、IntelligentPadに活かしたい!」と思ったそうですね。
吉田:生物の世界の「進化」という言葉と、この「ミーム」という言葉を関係づけて、IntelligentPadを「ミームメディア」として捉え直すという方針が生まれたわけだね。





川原:「IntelligentPadをミームメディアとして捉え直す」というのはどういうことなんだろう?単に一般のユーザーやプログラマーにとってのツールではなく、もっと社会的に文化的に、役に立つシステムとして捉えるということなのかな?

 
ミームプールという概念を、スクリーンを使って説明してもらう。
田中教授の論文を見ながら、Pad研究の最先端に触れる。
次々に興味深い話が飛び出す。分からないことは、思いきって質問!
吉田: う〜ん、システムというよりも、メディアとか場所という概念が強いと思うな。田中先生がPadに託した思いというのをひとことで言えば、「文化資産の流通の場」じゃないかな。例えばある人がひとつのPadをつくったとすると、また違うある人がそのPadの一部を取り出して再編集する。その新しくつくられたものを再びまた流通させたい、と考えたんだよね。
川原: それはまさに、田中先生が言っていた、「学生たちが自主的にPad開発に関わって、いろいろなPadがどんどん作られていった」という話ですよね!再編集と再流通が繰り返されるIPの周りには、多くの人が多様な役割(ロール)をになって、相互作用と創造力が自由に行き交うコミュニティーみたいなものができるというわけですね。
吉田:田中先生は、その文化資産の流通の場を「ミームプール」と呼んでいたね。そこに必要なものとして、1.自由に編集ができること 2.自由にコピーができること 3.多くの人が文化を流通できること という3つの必要事項を挙げていた。
川原:それをソフトウェア的にサポートしようとしたのが、ミームメディアとしてのIPというわけだ。だけど、今まで見てきたパッドは作品や教材というものばかりで、多くの人に開かれた場所、というイメージは少なかったけど・・・
吉田:そこなんだよね。そこで、「Piazza」の話が出たんだ。実は最初、このミームプールをWebとは別世界でつくろうとした。その1つがIPコンソーシアムで開発した「Piazza」サーバだ。「Piazza」って広場という意味だけど、そういう共有の場所に、それぞれがつくったPadを置いて公開する。
釧路工専の野口先生に見せていただいたよね。自分のキャラクターがいたりして、楽しい画面だった。
吉田:あれはあれで、1つの世界を持っていたけど、独自の別世界でやっていると、世の中の多くの人はそこに入ってこれない。だから、次はWebの世界にPadの技術を持ち込んでミームプールをつくろうと考えた。
川原: Webページの一部を、いろいろな機能と一緒にIPの技術を使って取り出して、自由に再編集して、再びWebページとして公開できる。Webの世界そのものが「Piazza」になるというイメージなのかな。Padの技術を使えば、そんなことまでできてしまうんですね!
 

北大の大学院生が、Pad研究を紹介してくれた。コンテンツもデザインも洗練されている。