太田:今、IPを使っていろいろソフトを発注している立場からいうと、例えばそのソフトを採用しようという決定権を持っている中間的な人にとっての、IPの特徴が見えにくくなっているのかもしれませんね。例えば、エディットテーブルという編集教育ソフトを学校現場で使ってもらっていますが、子どもたちはすぐにソフトに慣れてしまう。基本的な操作を5分教えれば、あとはボタンをいろいろ押してみて、自分で何とかしてしまう。
田中:子どもの好奇心がなせる技ですね。見ていると、ボタンを片っ端から押してますよね。エラーをだしまくって遊ぶ子もいるけど(笑)。自分でルールをつくって遊ぶあたりは、「子どもは遊びの先生です」という言葉そのものですね。
太田:ところが問題なのは先生たちなんです。子どもたちが5分やって覚えることを、半年経っても覚えてくれない。そういう先生に限って「これは子どもには高度すぎませんか」なんて言ったりする(笑)。次にやっかいなのが、そういう先生方とばかりやりとりしている、いわゆる販売業者の方々。結局ITって言って便利になってきていますが、先生たちに限らず、そういう中間の人たちに、どうアピールするかが難しい(笑)。もう1つ似たような話ですが、理科のソフトを作った時に、授業に使えるくらいのコンテンツを入れようとすると、写真がすぐに100枚、200枚になってしまって、貸しポジ屋さんから500万円ぐらいの見積もりが来る(笑)。一方で、アフリカで働いている友人に事情を話したら、ンゴロンゴロ公園あたりでライオンの接写したものとかキリンの親子とか、貸しポジ屋さんもビックリするぐらいの写真がメールで送られてきた。こうなると貸しポジ屋は必要がなくなる(笑)。使う側は「タダで済んだ」と喜んでおしまいだけど、中間のコンテンツプロバイダーは面白くないですよね。
宮脇:最近、各地にNPOが立ち上がっていますけど、これは明らかに経済原理が今までの企業とは異なりますよね。プロフィットがあるから企業が投資するというスタイルから、全く別の尺度で動くスタイルへと、経済原理が変容を迫られている時期なのかもしれませんね。
岡本:中間の人たちが自らを変革することで道を拓くのか、それとも姿を消すのかはわかりませんが、いずれにしても経済原理そのものはなくならない。むしろ私は多様化の方向を辿っているのではないかと思います。今はそれぞれが並行しているんだけど、いずれ両者が交わる時期が来る。
宮脇:NPOやNGOが政府のできないことをする代わりに、政府の資金が流れ込んだりするなど、従来の価値観では資金が入らなかったところに資金が入りはじめています。普通の企業や社会でもそういう仕組みが少しずつ増えていますよね。
 

IntelligentPadは技術的にはいいところまできている。これからは周辺のモデル構築に注力すべきではないでしょうか……田中
新しい動きはすでに起こりはじめていると考えてもよいのではないでしょうか。一つの技術が認められるまでには長い年月がかかりますから、メーカーにはそれを温かく見守る勇気が必要です。……町田

 
 



 

町田:そういう動きがビジネスの領域にも入ってきて、混沌としているんでしょうね。格安でパソコンを教えるNPOの隣室に、決して安いとはいえない授業料でパソコンを教える民間のパソコン教室があるくらいの混沌。
太田:ちょうど今、金沢市内の中学校でパソコンを使った総合学習の授業をやっているのですが、市民から募った情報サポーターが、子どもたちにパソコンの操作方や編集のノウハウを教えてくれている。教育分野でのビジネスとしては非常に将来性のあるモデルだと思うんですが、このプロジェクトに資金提供していた企業は、短期的なビジネスになり得ないという判断からか、プロジェクトから手を引いてしまった。全国の学校に情報基盤が入ってしまった今こそ、そういうプリミティブな部分を掘り下げることが全体的としてのビジネスになることが理解されない。パソコンを使えない先生が授業に臨むというのではなく、ボランティアを投入してでも現場を活性化させることが必要なのにね。
岡本:そこにビジネスの可能性を求めない企業ってありますよね(笑)。問題なのは、そういうことがきっかけでボランティアとビジネスが共存できなくなっているということですね。
町田:ビジネスの範囲を「ここまで」って決めてしまっている企業は多いですよね。私の知人でパソコンを教えているNPOの方がいますが、本業の不動産業をしながらパソコン教室を運営している。全く違う畑のような気もしますが、実はパソコン教室で新しい人と知り合うことで、逆にビジネス・チャンスが拡大している。別の知人は、ソフト会社でシステムを作りながら、個人で開発したソフトをフリーで配布している。両者に共通する点は、対価を求めるという目的のみで動いているのではないということです。自己実現をするとか、対価だけでないものを得ることで満足しているんですね。
太田:京都の“お鉢のまわる経済”みたいですね。お菓子屋の娘さんが着物を買ったとします。そのお披露目をするということで、お菓子を買ったり、お花を買ったりして、いろんな店の旦那衆にお金が入る。旦那衆はそこで儲かった分をお祭りでパーッと使って……という具合に延々と街の経済が動き続けていくわけです。店ごとの費用対効果なんて考えなくても、全体としての経済は動いていく。ちょうど今、岐阜県を紹介するウェブサイトをつくっているんですが、制作に関わっている外部のデザイナーさんが「季節ごとにポチ袋を印刷できる画像を配信しませんか」と提案してきた。和紙で印刷したくなるようなポチ袋の画像を配信すれば、美濃和紙が売れるでしょ、って。しかもそのポチ袋にお金が入れば、旅館の仲居さんなんかにお金が入って、さらに経済が動く。日本の文化や経済って、こういうのでできていんですよね。
宮脇:IPコンソーシアムはその性格上からか、次のビジネスのことを考えなければならないので、どうしても技術や効率の話に寄りがちなんですが、実はそういうことが重要なのかもしれませんね。
岡本:企業も効率化だけでは競争に勝てなくなってきていますよね。企業そのものは強くなる必要があるのですが、強くなる方法も多様化しないといけない。そこが画一だからこそ、効率化という話になってしまうわけですから。これはソフトにもいえる話で、優れた機能ばかりを並べるのではなく、何かとくっつくと便利になったりその逆になるような、そういう自由な発想が求められているのかもしれませんね。