【IPの夢を語り、IPで夢を語る】
IntelligentPadを使ってある世界を構成する。その場こそが、ユーザに用意された編集活動の場なのではないでしょうか……岡本
IP探訪記の締めくくりとして、某月某日、これまでインテリジェント・パッド・コンソーシアムの企画委員を経験する4名にお集まりいただき、IntelligentPadに託した夢と未来を、縦横無尽に語り尽くしていただいた。技術者としてのロマン、ビジネスマンとしてのシビアな目、そしてIP応援団としての熱いエール。4時間にわたる熱血座談会のダイジェストをお届けします。このメンバーが集まると、いつものことながら四方八方に拡がる話題・・・その中にIPの今後が見えてくる。

座談会出席者
田中一之さん(日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社)
宮脇裕治さん(富士ゼロックス株式会社)
岡本泰次さん(富士通株式会社)
町田初雄さん(キヤノン株式会社)
司会:太田剛(編集工学研究所)





太田:さて今日は、これまでIntelligentPadコンソーシアムのブレーン(笑)といいますか、IPを愛してやまない(笑)みんさんに集まっていただきました。まずはみなさんがIntelligentPadに関わるようになった契機をおうかがいしてから本題に入りたいと思います。
岡本:AIについての研究が盛んになりはじめた14年前、富士通でも大学の研究室との産学共同研究に着手しはじめたのですが、そのうちの1つが北海道大学の田中譲先生の研究室でした。IntelligentPadが産声をあげてから、まだそれほど経ってない頃だったと思います。私もAIや自然言語処理的なことを研究テーマにしていたのですが、ある場面の状況やシーンを“意味”として表現できるという点にIPの魅力を感じましたね。そこで、田中先生を中心にした「IntelligentPad研究会」を結成した。これが今のIPC(インテリジェント・パッド・コンソーシアム)の前身です。人の思考に沿ってモノをつくれるというIPの特性を活かして、私はドキュメント・ツールとして製品化しようと考えていました。田中譲先生は、IPで知識の編集・評価・流通を行い、結果として「知財」を積み上げていくという卓越したコンセプトをうち立てましたが、これをうまくドキュメントの管理に使えないかと考えたわけです。この知財蓄積モデルは、企業がナレッジマネジメントに躍起になって取り組んでいる現在にこそ必要な考えですね。
あれから10数年が経ちますが、この考え方を実現できるツールはIPをおいて他には見あたらない。IPを使ってすべての場所や空間での社会活動に付随する情報をやりとりできるような「地球情報空間」みたいなことを構想していたこともありますが、ようやくこうした夢を現実的に語れる環境が整ってきたなと感じています。
宮脇:富士ゼロックスの歴史の源流を辿ると、世界で初めてGUIを搭載したワークステーション「star」を開発したパロアルト研究所に至るということもあって、社内ではユーザ・インターフェイスやダイレクト・マニピュレーションなどの研究が盛んなんです。かくいう私も、他のプロジェクトを手がけつつも、ユーザ・インターフェイスの研究に日々を費やしてきた。すでに社内に田中譲先生の研究室やIPCに出入りしていた人がいて、その人に「IntelligentPadというおもしろい技術があるぞ」と紹介されたのが、私とIPとの出会いでした。1996年頃だったと思います。ユーザ・インターフェイスの研究者から見てIntelligentPadというのは、機能を目に見えるようにラッピングしてダイレクト・マニピュレーションができる、まさに理想のシステムでした。岡本さんもおっしゃっていましたが、IPは知識処理やナレッジマネジメント、文書管理などとの相性は抜群だと思います。知識をIPに置き換え、さらにそれを組み合わせることで知識が延々と生まれ、流通していく。このコンセプトは、パロアルト研究所がGUIを生み出したのに匹敵する。この数年で、IPをブラウザ上で動かせるくらいの技術ができてきたのを見ると、ようやくあの当時やりたかったことが実現できそうだなという感触を持っています。
 

IntelligentPadが出てきたころは満足に動かせるマシンが少なかったことを思うと、これからがIPの全盛期なのかなと思います……宮脇

 
 



後になってからあれこれ振り返るのは簡単ですが、その状況におかれている時はそうもいかない。そこで何が具体的に見せられるかがポイントです。……町田

町田:キヤノンでは1991年頃からIntelligentPadの研究がはじまっていたようですけど、私がIPを知ったのは宮脇さん同様、社内の担当者から声がかかったのがきっかけでした。その担当者の責任ということではありませんが、最初の印象はあまりよくなかった(笑)。担当者に分厚いIPのマニュアルをもらって目を通したのですが、非常に論理的なソフトだと感じた。次にIPコンソーシアムに出席したのですが、ここでもセキュリティとかコンテンツ保護の話題だったので、非常に技術的な印象を受けた。そういう見方が180°変えざるを得なかったのが、編集工学研究所の京都デジタルアーカイブ「The MIYAKO」を見た時です。こういうことができるソフトなんだ、と目から鱗が落ちた。活用のイメージを提示されたことで、IPの良いところが見えたわけです。さらにIPの本質に触れたのは、IPの技術的なことは知らない多摩美術大学の学生たちが、情報整理や情報編集のプロセスにIPが有効じゃないか、という直感でIPを使いこなす姿を見たときです。システムということを意識せずに情報整理をすんなりと行えるというのは、簡単そうで実は困難なこと。それがIPを使えば可能だというので、私は感嘆の声を上げるとともにIPの世界に少しずつはまっていきました

 

【京都デジタルアーカイブ】
1997年度のマルチメディアコンテンツ振興協会の採択事業で開発されたデジタルアーカイブ。
日本文化特有の情報編集技術がふんだんに盛りこまれ、
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