「MIYAKOはクライアントオーサリング環境を重視したシステムとしては、かなりうまくいきましたが、編集性という要素は少なかった。」と語る太田さん。次に取り組んだのは、ネットワークなどの情報世界とクライアントの編集環境をどう組み合わせるかということでした。
「そこで生まれたのが、IPでつくったESP(エディトリアル・スコアリング・プラットフォーム)という編集システムです。レパートリー、カウンター、パレットという3つで構成されています。この3つは編集的な考え方を学習に使えないかという依頼が教育関係者から多く聞こえてきて、IT環境のなかで実現するのは、何が必要かと考えたときに生まれました。」

●レパートリー
世の中のあらゆる電子情報。テキストや画像、ムービー、CD-ROM。学習・編集に扱うための情報群。
「昔は、ノートと教科書、黒板だけでよかったけれど、パソコンを使ってうんぬんという話になると、相手にするレパートリーがものすごく増えます。」
●カウンター
ガイド・ナビゲーション機能。
「すし屋のカウンターを想像してください。板さんが何にしましょうとか聞いてきます。そしてヒラメが食べたいとか、あっさりしたものがいいとか、全部おまかせにするとか注文しますね。つまり、自分の興味はこれだ、そしてどうしたらいいかとお伺いを立てるわけです。板さんはもちろん自分のレパートリーを知っています。」
●パレット
カウンターと相談しながら、とってきた情報を組み合わせるための器・フォーマット。
「カウンターと共同でもつスコアに従って、パレットというのある情報構造を提供するわけです。スコアというのは、“順番”などの手続きのことで、NO,1を決めるときに使うスコア表のようなものですね。」

 


 
 
 
 
 

実は、このESPシステムの開発と前後して、1999年、田中譲先生のミームメディア研究所と編集工学研究所でなんと夏合宿を行ったのだとか。
「インターネットが爆発的に普及して、情報洪水と言われるこの環境のなか、来るべきITの世界のトレンドは何だ、そこに必要なシステムとは何かをじっくり考えようと、所長の松岡とスタッフで、北海道へ行って3泊4日の合宿をしたんですよ。」
メンバーは朝8時からミームメディア研究所に入り、夜の10時まで議論、内容を朝の4時までかけてプリントにまとめたそうです。次の日もまた朝8時からそのプリントをもとに話し合いを再開。人をここまで駆り立てるIPの魅力を改めて実感。
「歌舞伎の情報構造はどうなっているのかや、原子周期律表の分子と高分子と遺伝の関係ってどうなっているのかなど、もう総ざらいやって、最終日に出てきたのが、『ミームの国』をつくってみないかというものでした。」

 

 

 

 

「このアイデアは、情報の価値とは何か、ミームプールの状態とは何か、という議論のなかから出てきました。ミームプールではIPを使った色々な部品が交換されるわけだけれど、誰かがプールの部品を使って、ある新しいシステムをつくったりします。それをもう一度ミームプールに返したら、“評価”されて世の中で売れたとする。こうした社会の仕組みを含む世界観でミームプールをアピールしようとプロジェクト化したのが『ISIS編集の国』です。」
人が人に与える評価というものも情報として価値をもたせたわけですね。
「例えば、ここにある識者、目利きのAさんがいるとします。彼がBさんが今度つくったものはすごいよと言ったら、皆がBさんに注目します。しかし、目利きのAさんがいいと言ったものの、Bさんが実際につくったものが駄目だったら、Aさんの価値が下がりますね。そうしたものも価値としてカウントしネットワーク上で流通させる、つまり全体を知財流通システムとして考えたわけです。このシステムをESPでやりました。」
PADでつくられたESPはCD-ROMで無料配布され、ユーザーは『ISIS編集の国』サイトで登録を行ってから、用意されたコンテンツに飛び、投稿など情報のやり取りをしました。最終的な実験登録者は、3000人にもなったそうです。

この実験プロジェクトにはソニーミュージックエンタテインメント、資生堂、NTTドコモ、凸版印刷、ソフトフロント、日立ソフト、アコムなどIT社会をリードするそうそうたる企業参加しました。