柳澤 好昭(国立国語研究所)


--「日本語学習とIntelligentPad」--



〔Q〕どうしてIntelligentPadを知ったのですか。

〔A〕コンピュータ関係の営業の方にIntelligentPadを知っている方がいてその方 に常日頃から日本語協働学習や共創活動に使える簡易な開発ツールはないかと言っ ていたのです。北海道に出張する機会に北海道大学の田中譲先生を紹介していただ き先生の研究室でご説明いただいたのがIntelligentPadだったというわけです。そ のときの強い印象は今でも覚えています。これだと思いました。


〔Q〕どのようなことをしたいと考えているのですか。

〔A〕日本語を教授する活動は,教授者と学習者や,学習者間での相互作用,学習環 境との相互作用など極めて複雑で微妙な行動のつながりの中で組み立てられていま す。また日本語を学習するということは言語使用の体系化第二言語獲得上の体系 化などの課題の定式化や解決を図ることです。このためには、学習者と教授者学習 者同士教授者同士第三者と教授者と学習者など複数の人間が共同して創り出すこと (共創)が必要です。なぜならこの課題というのは学習者はもちろん教授者にと っても未知の課題と言えるからです。教授者は方便的に課題に対する解答を持って いるにすぎません。正解は持っていないのです。

 正解を求めて解答を積み重ねていく過程が学習活動です。教授者と学習者とが未 知課題設定活動→解答模索活動(リソース授受試行錯誤作業)→解答作成活動→評 価活動→解答公開活動というサーキュレーションが進む中で正解を見出そうとするも のです。このような活動特にリソースの授受試行錯誤作業解答作成活動解答公 開活動にコンピュータとネットワークが有効活用できると考えています。副次的成 果として学習活動のプロトコルが蓄積できる自己モニタリングや自己評価など学習 者の自律的な学習が推進される教授者の役割認識の再考につながるとも考えていま す。

 具体的な例として受験生を取り上げてみます。未知の課題に対して予備校の講師 学校の先生教科書参考書先輩模擬テスト自己作成による単語帳やサブノート などの様々な情報源を駆使し学習活動を行っています。これらの情報源は学習プロ トコルとして蓄積されていきます。このようなメディアにリテラシー(読み書き) とオーラシー(話し聞く)の統合型メディアとしてコンピュータを情報の流通と検 索のメディアとしてインターネットを加えようというものです。

 国内外の日本語学習者が目標言語の獲得を図るとき教授者学習者仲間教科書参 考書周囲の日本人インターネットなどからの情報をコンピュータ上でマルチメディ アとして融合したもの例えば自己作成の辞書やサブノートなどは学習リソースとし て学習の大きな拠り所となる可能性があります。日本語教育研究者にとっては学習 者のプロダクトが学習プロトコルとして学習過程の研究対象となり得ます。


〔Q〕簡易なツールとはどのような意味で使われていますか。

〔A〕オブジェクト指向型であることマウスだけで操作できることコマンド入力が できるだけ少ないことコンピュータ言語を知らなくても一応使いこなせること部品 で構成され組み替えが容易であること容量が大きくないことインターネット上から 部品をダウンロードできることサンプル部品が豊富にあることユーザーが操作手順 などをWebページで閲覧できることOS間での互換があることバージョンアップのと きに部品の互換性が考えられていること動作が重たくないこと以上です。


〔Q〕現在どのような活動を行っていますか。

〔A〕オーストラリアのモナッシュ大学日本研究科を試行の対象とした IntelligentPadとインターネットを使った日本語学習リソース提供システムの実験 研究を行っています。このほかフランスのリヨン大学やカナダのトロント大学にも IntelligentPadを提供しています。モナッシュ大学での試みをサンプルとしてこれ らの大学とも輪を広げていきたいと考えています。


〔Q〕これまでにどのような問題にぶつかりましたか。

〔A〕大きな問題として三つ挙げられます。一つは標準仕様に関わりますが IntelligentPadの互換性の問題です。IntelligentPadの日本語版と英語版windows の日本語版と各国語版とのブリッジバージョンの差異と開発された部品の互換性の問題です。二つ目は、各国語版windowsにおけるIntelligentPad上での日本語表示です。この二つ点については富士通(株)や日立ソフト(株)の関係者にいろいろご教示いただいております。最後はマニュアルです。この夏一人のコンピュータ・ユーザーをIntelligentPadの学習のために田中先生のところで3週間ほどお世話いただきました。現在その学習過程で気づいたことをマニュアル化しています。開発者が作成するマニュアルとは違った角度からのものになると思います。なおこの三点について解決策や情報をお持ちの方はぜひyoshi3@kokken.go.jpまでお知らせいただければ幸いです。


〔Q〕今後の予定やIntelligentPadへの期待は。

〔A〕今後の予定としては前述した解決すべき問題をクリアして国外の大学と日本 語学習リソース提供システムを築き上げていきたいということです。 IntelligentPadへの期待は関係者が大きな市場となる言語教育の世界にさらに注目 をしてくれること部品の開発商品化提供支援の流通システムを築くことです。


〔Q〕最後に何か。

〔A〕IntelligentPad開発に携わっている方のご苦労は大変なものと思いますがユー ザーとして愚問を投げかける素人を温かく見守ってくださるようお願いします。


97/11掲載



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