佐藤 和洋(札幌学院大学)


IP及びIPCへの期待 −−
− 真のソフトウェア(パッドウェア)工学の実現に向けて −



コンピュータのダウンサイジング化、オープン化、ネットワーク化等の急速な進展に より、ヒューマン・センタード・コンピューティング(HCC)が加速され、情報メ ディア豊穰の世界が出現しつつある。即ち、情報メディアのグローバリゼーションと パーソナリゼーションである。これらの融合により新たな情報文化創生(情報メディ アリザボアの誕生)が期待される。これを確かなものにするためには、情報生態サイ クル(情報の生成、整理、伝達、獲得、抽出、変更、消滅等)を踏まえて、種々の情 況(背景、環境、目的、時、認識レベル、対象等)に影響される人間の情報行動(情 報の記録、保存、編集、流通、外在化、引用、共有等)及び思考過程を効果的に支援 する情報メディアシステムが待望される。このシステムの核が、オブジェクト指向プ ログラミング、シンセティックプログラミング、そしてアクティブ・メディア・オブ ジェクト(AMO)管理技法からなるIntelligentPadシステムである。

IntelligentPadシステムは、視覚的操作対象であるパッドの組み合せ或いは組み換え で新たなパッドを容易に生成することができる。これは、遺伝子工学の組み換え操作と のアナロジーから、パッドウェア工学と呼ぶことができる。これこそソフトウェア工学 である。自由自在なパッドの組合せ、パッド(合成/複合パッドも含む)の変更等によ る新たなパッドの生成は、例示パッドによる新たなパッド創生ともいえる。即ち、Cre ation-By-Example(Design-By-Example)を効果的に支援する環境がIntelligentPadシス テムである。

「思想工学」という言葉がある。思想も基本となる原子や遺伝子が組み合わさってで きる分子や生物であるとの見方で新たな思想を組み上げようとするものである。これ は思想のパーソナル化を可能とするものであり、更には文化のパーソナル化をもたら すことになるかもしれない(既にその兆候は現われているが)。このような情況の是 非はともかく、思考の単位をパッドとすれば、思想工学へのIntelligentPadシステム の適用も興味がある。
<> 種々の課題をはらんでいるが、それ以上に多くの可能性をIntelligentPadシステムは 内包している。それは新たな、そして真のソフトウェア工学(パッドウェア工学、 思想工学)の実現である。大きな動きとすべくIntelligentPad Consortium(IPC) にはIntelligentPadの国際的展開を期待したい。その一助となれば幸いである。

上記は私が第1回IPC総会でIP及びIPCによせる思いを表明したものである。 限られた紙面の中でのことであり論理の飛躍はお許し願いたいが、あれから4年経った 今もIPによせる思いは未だ変ってはいない。しかし、もう4年も経ったのかと月日の 経つ速さに驚きながら、多くのIP支援者とともに歩んできたこの4年間、私には何が できたのだろうかと反省の日々が続いている。現在、私は約20年間勤めていたある民 間会社を退職し、この4月より人生の活動の場を大学に移したが、新たな気持ちでIP 普及を模索している。

IPの開発者である田中譲先生とのお付き合いはかれこれ20年になる。データベー スという共通の研究テーマをもっていたことから、私の方からお声をかけさせて頂き、 今日まで多くのご指導を頂いてきた。理論家でもあり実践家でもある先生の研究姿勢に いつも感服しながら、先生の後ろ姿を見ながら今日まで歩んできたように思う。

10年以上も前になるが、スウェーデンでのデータベースの国際会議に出席したときの ことである。会う人会う人に”田中譲を知っているか? 今、彼は何をやっているか?” とよく聞かれたことがある。先生がこんなに評価され、有名になっていることに驚きなが らも、少しばかりミーハーな気分を味わいながら会議出席者と意見交換したことが思い 出される。その後も私の手の届かない分野で多くの研究成果を発表され、直接間接的に 多くのことをご教示頂いてきた。”IP”、そう、このIPもその一つなのである。

IPに最初に出会ったのは結構早い時期であったように思うが、残念ながら当初は 充分に理解していたとはいえない。私の問題意識がそこになかったからかもしれない。 ( 今、考えると、先生の先見性、先行性に驚嘆しないではいられない。なぜなら、IP が 今のソフトウェア工学の種々の研究分野を先行的に牽引している感すらするからである。)
その後、少しずつ私の理解も深まり、自分の研究部隊のテーマとするには少々問題があ ったので、他の研究部隊に紹介するような形で、勤務していた研究所内での展開を図っ たがうまく行かず数年が過ぎて行った。この間、私の仕事の内容も色々と変り、研究戦 略を立案する部門に席を置いていた約5年前に、田中先生の講演会を企画したことが IPとの2度目の出会いとなった。この講演会での先生の講演内容は私の上司の心を大い に動かし、この時からIPとのつながりが確かなものとなり、研究所での具体的な展開 が可能になった。IPC設立にも参画するなど、理解ある上司の支援を受け、船を大海 に漕ぎ出せたかに見えたが、組織変更等により、IP展開に固執した私は筏船で大海を 彷徨うことになってしまった。企業力学の大きな波に飲み込まれ、右往左往しながら充 分な活動もできぬまま数年を費やしてしまったが、今日、大学という新たな舞台で初志 を貫徹すべくIPの普及に思いを巡らしている。IPの普及には一層の地道な活動が要 求されよう。即ち、本物指向の草の根ネットワークの拡大である。まずは生き存えなけ ればならないからである。大学という場でそれに応えられればと思っている。そして今、 その一歩を踏み出しつつある。
以上
佐藤 和洋
札幌学院大学社会情報学部 助教授



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